ほんの少しのゆがみで円が美しく
丸い形のロゴマークをデザインする時、デザイナーが正円(真円)をそのままの状態で使うことはあまりありません。ここでいう正円(真円)は、限りなくまん丸に近い形を機械で作ったものと思ってください。
丸形のロゴマークに使う円は、正円(真円)のように見えて実はほんの少したわんでいます。きっちりした真円は採用しません。観る人(の脳に)に緊張を与えてしまうからです。
デザインの解説文には「真円を元に誠実さを表現しました」などと書いてあるかもしれません。
そういう場合でも、虫眼鏡で見ればちょっと歪んでいたりするものなのです。
デザイナーは機械で作った円をそのまま利用するのを避ける傾向があります。とても嫌う人も居るくらいです。どうしてなのでしょうか?
まず、Canvaからダウンロードした無料のロゴ素材とSTARBUCKSのトレードマークを見比べてください。Canvaのロゴ素材の方にすこし違和感を感じませんか?
STARBUCKSのトレードマークは違和感を感じません。きれいな丸の形をしているように見えますよね。ただ、実際はほんの少し歪んでいるんです。僅かですが、わざとたるみを持たせているんです。
自然界で生活している時、機械的な輪に遭遇するチャンスは滅多にありませんから、脳の仕組み上、違和感を感じてしまうため、それを目が勝手に書き換えています。
錯覚の一種なのですが、じーっと円を見続けていると、円が縦長に見えてきませんか?
これは人間の知覚が縦方向のものを長く感じるために正円が縦長の楕円に見えてしまう錯視のせいです。(フィック錯視/垂直水平錯視と云います)
これを補正するためにすこし円をたゆませると、美しい丸に見えます。
目の錯覚を補正する処理は、いつ頃から始まっているのか?
この目の錯覚を補正する処理は、いつ頃から始まっているのでしょうか?
実は紀元前から、技術的に可能なのに、わざと正円を使っていないものは沢山あります。
キリスト教では、イエスやマリア様の頭の後ろで光る後光の輪。曼荼羅の輪もそうです。歪み、たるみを含ませて、緊張から開放させたいからです。
円は人間にとっての心理的原型
円は人間にとっての心理的原型ですが、それは決して真円ではなく、きっちりしていない曲線こそが、人をリラックスさせるし、美しさと魅力を感じさせてくれるものだと昔から考えてられてきました。
『円は(ほんの少し)歪んでいる方が美しい』
人の脳はそう感じるものなんだと覚えておいてくださいね。
もちろん例外もあります。可士和さんデザインのGUのロゴ等がそうです。ルールを外れたところに意図する信念があるなら画期的でよいという事例だと思います。
Written by Takako Taniguchi