欧文タイポグラフィの歴史は、メソポタミアやエジプト文明の石碑に刻まれた文字から始まり、修道士の写本、そしてグーテンベルク活版印刷による「様式化」へと進化してきました。その背景には、常にその時代の「技術」と「哲学」が息づいています。長い歴史と共に、非常に多様な種類があります。
文字は単なる記号ではなく、その時代の技術や美意識を映し出す鏡です。紀元前の石碑から、現代のデジタルデバイスまで。歴史の潮流(エポック)ごとに、代表的なフォント名(書体名)を交えて解説します。

ブラックレター(Blackletter)
【起源:12世紀〜/中世】 グーテンベルクが活版印刷機を発明した際、当時の写本の筆致を模して作られた最初の活字書体です。太い線と鋭い角を持つ重厚なフォルムは、中世ヨーロッパの権威を象徴します。
現代では可読性よりも「様式美」を重視する場面で活躍します。伝統的なブランド、クラフトビール、ストリートファッションなど、歴史的な重厚さや反逆的な個性を表現するアイコンとして圧倒的な存在感を放ちます。
Blackletter / https://fonts.adobe.com/fonts/tags/blackletter
オールド・スタイル(Old Style / Garalde)
【起源:15世紀末〜/ルネサンス】 活版印刷の黎明期に誕生した、ペン書きの余韻を残す書体です。文字の軸がわずかに傾き、セリフ(飾り)が緩やかな曲線で繋がっているのが特徴です。
500年以上経った今も、書籍の本文や知的なブランディングにおいて「洗練された信頼感」を演出する不動のスタンダードです。目に優しく、長文を読ませる媒体において最も美しく響きます。
Garamond(ガラモン) / https://www.morisawa.co.jp/fonts/specimen/1648
Caslon(キャズロン) / https://fonts.adobe.com/fonts/adobe-caslon
トランジショナル(Transitional)
【起源:18世紀中盤〜/啓蒙時代】 オールド・スタイルからモダンへと移行する過渡期に生まれた書体です。印刷技術の向上により、線のコントラストが強まり、軸が垂直に近づきました。
伝統的な温もりと、科学的な正確さが共存したバランスの良さが魅力です。イギリスの公的な雰囲気や、高級感と実用性を兼ね備えた「大人の落ち着き」を伝えるデザインに多用されます。
Baskerville(バスカービル) / https://fonts.google.com/specimen/Baskervville
モダン/ディドネ(Modern / Didone)
【起源:18世紀末〜/産業革命】 極細の横線と極太の縦線が鮮やかなコントラストを描く、極めて人工的で合理的な美しさを持つ書体です。
ハイファッションやラグジュアリー誌のロゴに欠かせない「エレガンス」の象徴です。視認性よりも視覚的なインパクトを重視し、誌面に都会的な緊張感と華やかさを添える、まさに「主役を張れる」書体です。
Bodoni(ボドニ) / https://fonts.google.com/specimen/Bodoni+Moda
Didot(ディド) / https://fonts.google.com/specimen/GFS+Didot
スラブセリフ(Slab Serif)
【起源:19世紀初頭〜】 産業革命期のイギリスで、ポスターや広告で「目立つこと」を目的に生まれました。セリフが本体と同じくらい太い箱状(スラブ)にデザインされています。
その力強く安定したフォルムは、現代ではタイプライターのようなノスタルジーや、アウトドア、タフな工業製品のブランディングにおいて、誠実で力強い個性を主張します。
Clarendon(クラレンドン) / https://fonts.adobe.com/fonts/clarendon-text
Rockwell(ロックウェル) / https://lets.fontworks.co.jp/fonts/2947
サンセリフ:グロテスク(Grotesque)
【起源:19世紀前半〜/モダニズム】 「セリフがない」という姿が当時では異様なため、当初は「グロテスク(奇怪)」と呼ばれました。装飾を排除した機能美の追求がここから始まります。
初期ゆえの少し不器用で力強い造形は、現代ではかえって「こなれたレトロ感」や「無骨なクラフト感」を演出するスパイスとして、ファッションやカルチャー誌で重宝されます。
Akzidenz-Grotesk / https://fonts.adobe.com/fonts/aktiv-grotesk
Franklin Gothic / https://fonts.adobe.com/fonts/atf-franklin-gothic
サンセリフ:ジオメトリック(Geometric)
【起源:1920年代〜】 バウハウスの影響を受け、円や直線といった幾何学図形をベースに設計された書体です。一切の無駄がない姿は、未来、テクノロジー、革新を象徴します。
時代を超越したモダンさを持ち、ハイテク産業からモダンアートまで、クリーンで前衛的な世界観を構築します。ルイ・ヴィトンやフォルクスワーゲンのロゴなど、ブランドの「普遍性」を示す際にも有効です。
Futura(フーツラ) / https://fonts.adobe.com/fonts/futura-pt
サンセリフ:ヒューマニスト(Humanist)
【起源:20世紀中盤〜】 サンセリフの簡潔さを持ちながら、伝統的な楷書の骨格を意識して設計された書体です。幾何学的な書体よりも親しみやすく、視認性が非常に高いのが特徴です。
公共サインやデジタルのインターフェースに最適です。「現代的でありながら、冷たくない」という、今の時代が求める安心感と機能美をハイレベルで両立させます。
Gill Sans(ギル・サン) / https://lets.fontworks.co.jp/fonts/1627
Frutiger(フルティガー) / https://lets.fontworks.co.jp/fonts/1591
ユニバーサルデザイン(UD)欧文書体
【起源:20世紀後半〜現代】
複雑な漢字を持つ和文に比べ、欧文はもともと視認性が高いですが、それでも「i と l と 1」の判別や、低視力者・読字障がい(ディスレクシア)の方への配慮として、科学的な検証に基づいたUD書体が開発されています。和文のUDに比べると欧文UDは、より『判別(間違えないこと)』に特化した進化を遂げていると思います。
Frutiger(フルティガー) / https://lets.fontworks.co.jp/fonts/1591
Atkinson Hyperlegible / https://fonts.google.com/specimen/Atkinson+Hyperlegible
Inter / https://fonts.google.com/specimen/Inter
デザインの特徴としては、アパーチャ(開口部)を広くし、小さくなっても隙間が潰れないように、数字の1とアルファベットのアイの見分けが付くように、小文字の高さも少し高めになるようにといった工夫が施されています。
- アパーチャ(開口部)を広く: 「c」や「e」の穴を大きく開け、小さく表示しても文字が潰れないように設計されています。
- キャラクターの差別化: 大文字の「I(アイ)」、小文字の「l(エル)」、数字の「1(いち)」に明確な形の差(セリフやフック)をつけています。
- 大きなx-height: 小文字の高さを高めに設定することで、視覚的なボリュームを出し、判読性を向上させています。
空港のサインシステム、医療機器のインターフェース、Webアクセシビリティが求められるコーポレートサイトなど、情報の正確な伝達が生命線となる場面で不可欠な存在です。
《 Column 》西欧におけるUD書体の成り立ちと背景
空港サインから始まったヨーロッパのUD
現代のUD欧文書体の祖と言えるのが、1970年代に誕生した「Frutiger(フルティガー)」です。パリのシャルル・ド・ゴール空港のサイン用として開発され、「遠くからでも、斜めからでも、一瞬で認識できる」という、現在のUDに通じる思想の先駆けとなりました。
公的機関や団体がリリースする専用設計の書体が登場
最近では、点字や視覚障がい者支援を行う団体などが独自のUD書体をリリースしています。
- Atkinson Hyperlegible: ブラille(点字)研究所によって開発された、低視覚者向けの非常に判読性の高い書体。
- OpenDyslexic: 読字障がいを持つ人が文字の上下を判別しやすいよう、文字の下部に重みを持たせた特殊な書体。
デジタルデバイスへの最適化でより広まる文字への関心
Appleの「San Francisco」やGoogleの「Roboto」といったシステムフォントも、広義のUD書体と言えます。小さなスマートウォッチから高精細なディスプレイまで、あらゆる環境で「読み間違いを防ぐ」ための調整が極限まで施されています。
San Francisco / https://developer.apple.com/jp/fonts/
