ここまで、我々の脳が言葉と画像をどう取り扱っているか?脳内は非言語優先社会であるというお話をして参りました。ここからは、言語と非言語の伝達速度を考慮した、情報整理の話へ進みたいと思います。
優先順位と情報占有率
デザインとは情報を整理し、その情報をどこへどんな風に配置するかを考え実践する作業です。ですが、それに明確な正誤はありません。デザインには厳密な正しいも間違いも、ありませんのでね。とはいえ、やはり「一番のメッセージは何か」というのは常に考えておく必要はあると思います。
よく、上手くデザインする際のコツとして「一番伝えたいメッセージを、大きく目立たせる」という話を聞いたことはありませんか?なぜ、目立たせる(=情報の伝達に優劣をつける)必要があるのかといいますと、商業デザインはアートと違い、パブリックな業務連絡みたいなものですから、連絡事項がきちんと伝わっているかどうかが、大事だからなのです。
作る前に考えてみよう、デザインとユーザの距離


それでは、さっそくですが優先順位を考える前に、デザインされた成果物をユーザーが眺める時の距離感を考えてみましょう。
心理的な距離感ではなくて、物理的な距離です。
看板や屋外の大型ポスターは、間近で眺める機会がほとんどありませんから、ユーザーから見て、長距離に配置されていると云えると思います。
室内看板やのぼり、吊り下げポップなどは、中距離。名刺やショップカードは手元でしか見ませんので、至近距離の成果物ですね。
ロゴは、至近距離から長距離までオールマイティーに対応しなければならないのですが、それを除くと、販促物の中でも、チラシというのは、独特のポジションにあるとおもいませんか?
チラシは遠近両用の販促物
チラシというのは、その特性から「遠近両用」という特徴を持っているんです。
ですから、「メッセージをどう伝えるか」を考える上でも、構成やレイアウトを考える上でも、デザインを学ぶ上でも、よい題材になると思います。
慣れていない方がデザインする時、この特性に振り回されてしまって、考えがまとまらず混乱しているように思います。
レイアウトの基本的な考え方・重要度に応じた面積の配分
先ほど、商業デザインはパブリックな業務連絡みたいなものだから、連絡事項がきちんと伝わっているかどうかが大事だと書きました。そして、業務連絡で最も多様されるのが「チラシ」だと思うのですが、デザイナーではない方がチラシづくりに苦戦している様子を見ると、難しく考えすぎているきらいがあると思います。
デザインするという事は、情報を重要度別に分けて、ランキングに応じた面積の分配を行うという事なんです。
プロがチラシをデザインする際は、イベント名やタイトルだけで、紙面の三分の一、もしくは半分ぐらい使えたらいいなーという前提で、構成を考えていきます。
タイトル以外に、掲載するべき情報がどのくらいあるのか?その情報量との兼ね合いを考えつつ・・・できる限りタイトルに面積を割り振ることができるように進めていきます。脳内ではタイトルとそれ以外の要素で、領土争いをやっているような感じです。
デザイナーがタイトル以外のスペースをギリギリまで節約してでも、タイトルにドーンと広い面積を使いたいと考えるには、それなりの訳があります。

画像と文字の伝達スピードの違いの章でも書きましたが、文字の伝達スピードは、到底画像に敵うものではありませんし、画像がユーザーへ与える影響力の大きさを考えると・・・どうしてもタイトルに広い面積を与えたいんですね。文字で伝えるメッセージを確実に読んでもらいたいと思ったら、物理的な対処がそれなりに必要だと思うからなんです。
チラシのタイトル(講演会・イベント名・キャンペーンのタイトル等)は、謂わば主役。名探偵コナンでいうと、コナン君みたいなものです。目立たせるのは当たり前ですし、目立てば伝達力も上がります。逆に主役が他の要素に紛れてしまったら、名探偵コナンのチラシを作っていたつもりが、出来上がったものは「コナン君を探せ」というゲーム(ウォーリーを探せみたいな)だったという事に成りかねません。
企画書の基本的な構成要素

企画書の基本的な構成要素をピックアップして、それを「基本の要素」と「表現の要素」に分けてみましょう。
基本の要素 |
タイトル・日時・場所・時間・イベント概要・申し込み方法・連絡先・詳細 等 |
表現の要素 |
キャッチコピー・写真・イラスト・レイアウト・色・フォント書体・どんな紙にするか・折をいれるか 等 |
基本の要素は、まさに業務連絡に当たる部分ですね。表現の要素は、基本を補完する役割を果たすと思います。画像は雰囲気を伝えてくれる点では優秀ですが、肝心な「いつ・どこで・何時から・何が開催されるのか」という業務連絡は伝えてはくれませんから、表現の要素に入ります。


ここで、情報の振り分け(優先順位)について実際のプロジェクトで使用した企画書と、成果物を表示しながら考えて行きたいと思います。
ご協力賜ったのは、北海道で大規模農業を営んでいらっしゃる森田農場さんです。
企画の時点では、単なる情報の羅列でしかありません。その内容を、重要度別に3つのグループに分けてみましょう。
『重要度の高いものが、広い面積を確保できる』
最初に配置を考えるのは文字だけです。
最も重要度が高いものは、当然ですが、タイトルです。サブタイトルや、応募方法、要項、特典についての説明はその次。一番重要度が低いのが、詳細な説明文になります。チラシを見た方が興味があれば、読んでくれるであろう部分ですね。
重要度と面積、さらに余白の関係。
企画書の内容でデザインを2パターン作成してみました。

どうでしょうか?
タイトルでそれなりの面積を占めているように見えますが・・・どうも、まだ視点が定まらない感じがしませんか? タイトル部分に目が釘付けにならなければいけないのに・・・イマイチ惹きつけられない気がします。
タイトルの文字数を、少なくしてみました。


文字数を減らしてみたらどうでしょうか?
先程よりは、タイトルに目が行くようになりましたよね?
タイトルの文字数を減らした事で、自然と余白が増えています。
重要度に応じた面積分配って、ただ、広さだけあったらいいという訳でもないんですね。人口密度も減らさなくちゃいけないんです。
よく、アガサ・クリスティーのオリエント急行の映画とか、タイタニックの映画なんかで・・・一等の部屋は広くて、豪華なのに数人しか居なくて、広々しているけど、三等の部屋は、、大人数がギュウギュウ詰めになった大部屋だったりしますよね。
それと同じです。優先順位が高いという事は、面積が広いだけじゃなくて、面積に応じた人口密度も低く、他の要素よりいい暮らししてる=空間に余裕がある。そんな状態であるべきなんです。
まとめ

情報整理は、デザインする前の作業で、最も大事な部分になります。
1 デザイン成果物とユーザーの距離感を考えて設計する
2 重要度に応じた面積配分を考える
3 基本の要素と表現の要素を区別して考える
4 余白も重要なデザイン要素である

【協力】森田農場
北海道の清水町で100年間、就農されていらしゃいますが、特に、豆類に関んしては味もよく、品質も、専門性の高いブランド豆を生産されていて「モリタビーンズ」として高い評価を得ています。
https://www.azukilife.com/